その発足から1年、MIT/J-Clinicの議長教授であるAnantha P. Chandrakasan氏が、この画期的なMITとCommunity Jameelの連携による進捗状況についてOpening Doorsにお話しします。

 2018年10月、MIT工学部の学部長であるAnantha P. Chandrakasan氏、ならびに電気工学・コンピューターサイエンス学部教授のVannevar Bush氏がAbdul Latif Jameel Clinic for Machine Learning in Health(J-Clinic)の議長に任命されました。昨年に引き続き、Anantha氏およびJ-Clinicチームは、米国およびその他の地域におけるヘルスケアプロバイダーとの強固な関係を確立しつつ、病気の予防、診断、新薬の発見・開発において実際に世界に影響を与えるために、世界的なヘルスケア研究の境界を拡大することを目指しています。

J-Clinicが発足してから1年です。これまでの進捗状況に満足していますか?

Meet the J-Clinic leadership team (L-R):  Phillip A. Sharp, Chair, Advisory Board; James J. Collins & Regina Barizlay, Faculty Leads; Anantha P. Chandrakasan, Chair, J-Clinic.
J-Clinicリーダーシップチーム:(左から)顧問委員会議長Phillip A. Sharp氏、教員リーダーJames J. Collins氏とRegina Barizlay氏、J-Clinic議長Anantha P. Chandrakasan氏。

Chandrakasan氏:J-Clinicにとっては飛躍の1年でした。私たちの最大の成果は、病気の早期診断、新薬の発見、オーダメイド医療など、健康と人工知能の交錯点で働く研究者のコミュニティを定義したことです。

このステップにおける重要な点はMITにおけるコミュニティに対する認識を高めていることで、それは過去12か月で大きな成功を収めています。J-Clinicの運用法は、医療サービス提供者との連携に基づいています。その組織化に時間を要しましたが、現在その研究主任(PIs)は米国中の病院に勤務しており、私たちはすでに大きな進歩を感じています。

もちろん、新しい研究センターの設営には時間がかかります。最初の1年間は、それぞれの提案について話し合い、そしてその提案結果を見直し、教員に資金を提供することに重点を置いてきました。また、MITでは大変優秀な人材を採用しています。大学院のフェローシップ賞により、J-Clinicのコミュニティにコンピューターサイエンスと生物工学の人材も迎え入れることができました。

とりわけ順調に進んでいるプロジェクトはありますか?

Chandrakasan氏:現在、合計で18のプロジェクトに資金提供しており、いずれも一定以上ののキャパシティを有する病院と協力しています。ほとんどの病院は米国内にありますが、Jameel氏にご紹介いただいた日本の病院を含め、国外の病院にも交渉を行っており、着々とその範囲を拡大しています。

Regina Barzilay, Delta Electronics Professor, EECS, Faculty Co-Lead, J-Clinic, MacArthur Fellow
Delta Electronics教授、EECS、教員共同リーダー、J-Clinic、MacArthurフェローのRegina Barzilay氏

J-Clinicの教員リーダーの一人であるRegina Barzilay氏は、ボストンのマサチューセッツ総合病院と協働し、マンモグラムデータを使用した乳癌の予測に取り組んでいます。

さらに、2020年春には、AIを活用した新薬の発見・製造に関する年次シンポジウムへの参加も控えています。Community Jameelは、この動きを広めることに一役買っています。

コミュニティの別のメンバーである教授のDina Katabi氏は、ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニックと協働して研究を行っています。Katabi氏は、患者の体に機器を使用しない無線信号で、てんかん発作をモニタリングするための素晴らしい研究を行っています。

このプロジェクトは始動したばかりですが、その幸先は良いようです。

こういった協力関係を病院はどのように受け止めていますか?

Chandrakasan氏:この10年で、病院はAIを取り入れてより優れた診断と治療を行うことに強い興味を持つようになりました。この素晴らしいテクノロジーが出来得ることに対する理解は引き続き進められているところですが、それでもこの分野における研究には大きな可能性があり、病院はそのことを高く評価し始めているのだと思います。

しかしたとえば、多くの場合、現在AIは病気の診断すらもできません。私たちはそのアルゴリズムが行ったことの理由を説明できるようにする必要があります。私たちの目標は、医療従事者の知識を強化し、より優れた治療を行えうことをアシストすることです。

機械と人間がどのようなより良い方法で協力していけるかを考え続けています。実際に、教授のJulie Shah氏Bill Aulet氏は、MITの学生のためにMIT Collaborative Intelligence Competitionを運営しています。学生たちには5万米ドルの賞金を用意し、人間に力を与えるための共同作業を行うAIとコンピューティングを、私たちがどのように活用できるかを探求することをサポートしています。この研究において、人間の健康が重要な領域であることは明らかです。

たとえば、Shah氏自身は、ロボット工学と、ロボットの看護師が病院のさまざまな手順をどのようにスケジュールできるかについて取り組んでいます。このように、機械による自動化と人間が共同で作業を行うことでその改善が期待される分野が数多くあるのです。

J-Clinicで行っている大きなプロジェクトの一つに、医療従事者を教育することで順応を促進することがあります。これは私たちが初年度で大きな進歩を遂げた1つの分野です。AIを伴うテクノロジーの急速な発展は明らかですが、伴ってそれらのテクノロジーを採用する医療従事者の意欲も急速に高まっています。

このことに関する対話を私たちが行うことは、どのくらい重要なのでしょうか? J-Clinicと協働する病院に、AIがもたらし得る新しい機会とはどういったものなのでしょうか?

Chandrakasan氏:対話をし続けることは非常に重要です。また、そこではJ-Clinicの起業家的側面も求められます。

Dina Katabi, Andrew and Erna Viterbi Professor of Electrical Engineering and Computer Science.  Photo credit: © Lillie Paquette
電気工学・コンピューターサイエンス学部教授のDina Katabi氏、Andrew Viterbi氏、Erna Viterbi氏 写真提供:©Lillie Paquette

新しい方法を考案し、影響力のあるアイデアを得るために、私たちはDeshpande Center氏MIT Innovation Initiativeが率いるProto Ventures Programを始動しました。Proto Ventureを最初にフォーカスさせるこの分野が、コンピューターサイエンス、ビッグデータ、ライフサイエンスの交点で研究を生み出すというJ-Clinicの使命を支えています。

J-Clinic Proto Ventureは、まずソリューションを開発することに着手するのではなく、そもそも認識さえもされていない機会を定義することから始めます。その後学生、研究者、教員のMITネットワークでソリューションを構築していきます。

こういった流れで、MITとJ-Clinicは科学的発見から未だ社会において見えない価値を捉えてエコシステムを構築し、世界市場で大きな問題に対処するベンチャーを作り上げることができるように起業家をトレーニングすることができます。

J-Clinicの初年度の活動で直面した主な課題は何ですか?

Chandrakasan氏:私たちの活動の成功は、私たちがアクセスできるデータセットに大きく依存しています。しかし、病院もまたそういったデータを公開するということに対しては、とても慎重であるということが現状としてあります。このことに関しては、私たちはつながりを築き、安全なソリューションを構築するために、学び、順応し、大きな進歩を遂げるのみだと思っています。

私たちが少し加速していかなければならない事項です。しかし、より強固な協力関係が一度構築されれば、私たちは大量のデータを手に入れることができるようになると確信しています。クリニックとしては、より幅広いコミュニティを作り出すことができるように、病院へのアクセスをより増やしています。

現在資金提供を行っている18のプロジェクトの選択は難しいことでしたか?

David Sontag, Hermann L. F. von Helmholtz Career Development Professor in the Institute for Medical Engineering and Science (IMES) and Associate Professor in the Department of Electrical Engineering and Computer Science.  Photos Credit: © Lillie Paquette.
Institute for Medical Engineering and Science(IMES)Hermann L. F. von Helmholtzキャリア開発教授および電気工学・コンピューターサイエンス学部准教授David Sontag氏 写真提供:©Lillie Paquette

Chandrakasan氏:初回の資金提供に対して43件の応募があり、それぞれが非常にハイレベルなプロジェクトでした。また、多くのプロジェクトがMITの複数の教員を巻き込んでいたため、コミュニティではさまざまな取り組みがありました。

結果として多くの参加がありました。また、医療に関わる人、AIに取り組む人の数が増えている近年においてJ-Clinicが設立されため、このコミュニティは大きく成長していくと思います。

また、私たちはより広範囲にわたる影響の観点から、J-Clinic内で今までとは違った協力関係を築こうとしています。J-Clinicの影響とその範囲を拡大するためにどのようにどのような企業および財団と連携していくか、協議を重ねています。

MITにおいて他のJameel Labsとのつながりを築くことは重要しょうか?

Chandrakasan氏:その通りです。その点については、特に教育に関するAbdul Latif Jameel World Education Lab(J-WEL)との協力において大きな進歩を遂げています。J-Clinicは、米国に所有する巨大な病院ネットワークへの出資だけでなく、インドの農村地域のような開発途上の市場にも影響を与えることもできます。インドでは、私たちから助成金を受けた団体の一つがすでに面白い活動を行っています。

また、私たちはアフリカの人里離れた地域や、その他の発展途上国の国々に不可欠のテクノロジーと低コストな医療機器を提供できるようにしたいと考えています。Abdul Latif Jameel貧困アクション・ラボ(J-PAL)は、それらの地域における活動の中心となることでしょう。

最後に、今後1年間で何を期待することができるでしょうか?

Chandrakasan氏:実際のデータセットを分析していること、論文を公開していること、病院に早期導入していることから、すでに開始した研究に関しては早期における良い研究結果が期待されます。

また、刺激的な新しい分野を特定して、直接スタートアップにつながるようなテクノロジーを開発するProto Venturesプログラムの進展も期待されます。あるいは多数のAIと健康に関するワークショップ、新薬発見に関するブートキャンプとシンポジウムといった、教育という領域も私たちがその発展を確信している領域です。

今後は私たちと少なくとも1つ以上の主要業界との連携が期待されます。より多くの分野を繋ぎ網羅し、もっと多くの人々を巻き込みんで、よりJ-Clinicコミュニティを強化していく資金を増やしていくことができると考えています。

 

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