MITのジョンD.マッカーサー・化学教授であるティム・スウェーガーは、彼の同僚と手早くかつ簡単、そして手頃な価格の食品安全検知技術を業界と消費者にもたらす新しい方法を開発しました。

Abdul Latif Jameel Water and Food Systems Lab(J-WAFS)よりファンドを受け行われている彼らの研究は、食品中の細菌汚染を検出できる特殊な液滴(ヤヌス乳剤と呼ばれる)が基本となっています。

今回、アブドゥル・ラティフ・ジャミール代表 が、このプロジェクトとその グローバルな食品安全への潜在的な影響について、スウェーガー教授と座談を行いました。

質問:この研究プロジェクトで取り組みたいと考えている主な問題は何ですか?

大腸菌の電子顕微鏡写真  (©Janice Harvey Carr、疾病管理センター)
大腸菌の電子顕微鏡写真
(©Janice Harvey Carr、疾病管理センター)

ティム・スウェーガー:現在、特に米国で非常に多くの製品がリコールされている理由は、食料品店に製品を流通させる前に、リステリア菌、カンピロバクター菌、大腸菌などの病原菌を十分な感度と速度で検査するシステムが存在しないためです。

製品の賞味期限は限られており、かつ多くの場合は低温で保管する必要があります。また、そのプロセスを中断するためには多くの費用がかかります。

さまざまな食品安全検知技術はすでに多数存在しており、また市場に出回っていますが、病原体ベースの食品リコールの頻度を考慮すれば、この問題がいまだに解決されていないことは明らかです。

私のアイディアというのは、常に、もし生物や生物学的プロセスを検出しようとしているなら、それらが元来存在する環境を密接に模倣する方法で検出ができればベストだろうということでした。そして、そのアイディアに基づいて開発を始めました。

質問:お使いの技術の仕組みを説明してもらえますか?

私たちは複雑な液体コロイドを扱っています。 このコロイドは、2つの異なる油を含む小さな液滴を水中に分散させることによって生成されます。その生成後、私たちが病原体または他の生物の「餌」のように作用する生体分子認識要素を表面に集めます。これらの複雑な液体コロイドは、単に「液滴」とも呼ばれ、病原体に結合し、その関連組織を検出に使用するため使われるものです。

ヤヌス乳剤の液滴は、ラボ内の食品病原体による汚染の存在に応じて形状が変化する過程でとらえられることができます。これらは肉眼で見ることができ、開発中のハンドヘルドセンサーにより、食品中の細菌汚染の存在と量を定量化することもできます。(写真提供:© The Swager Group、MIT)
ヤヌス乳剤の液滴は、ラボ内の食品病原体による汚染の存在に応じて形状が変化する過程でとらえられることができます。これらは肉眼で見ることができ、開発中のハンドヘルドセンサーにより、食品中の細菌汚染の存在と量を定量化することもできます。(写真提供:© The Swager Group、MIT)

私たちは、同じサイズの2つの半球が存在するパーフェクトヤヌスエムルジョンと呼ばれる構造において、2つの不混和性オイルを同量含む液滴を使用しました。半球を構成するオイルは密度が異なるため、オイルがどう整うかに影響しあい、結果として重いオイルが底に溜まります。ただし、ノートパソコンの画面に設定することができるプライバシー画面のように、これらの液滴は、位置合わせにしてまっすぐに見たときにのみ画像を送信します。これは、結局のところ、これらが液体レンズだからです。

これらの液体マイクロレンズを特にユニークにしているのは、特定のバクテリアタンパク質に結合する能力です。それらの結合特性により、特定のバクテリアまたはタンパク質に結合したときに異なる指向に適応することを可能にします。また、これらの結合プロセスにおいて、先ほどの「プライバシー画面のような」指向が傾き、混乱します。

その結果、画像を送信するのではなく、不透明になります。

この巨視的な効果はスマートフォンで使用することができ、液滴の層を通して見た画像を認識できなくすることができます。

あるいは、これらの傾いたパーフェクトヤヌスの液滴を、画像分析を使用してカウントすることができます。この方法により、細菌数または存在するタンパク質の濃度を正確に測定できます。

質問:この技術は、なぜ食品安全性検知業界にとって衝撃的なのでしょうか?

ティム・スウェーガー:病原体ベースの食品汚染を効果的に検査するには、できるだけ頻繁に検査する必要があります。

つまり、もし50,000ユニットごとに1ユニットを検査できても、多くの汚染事例が見逃されることになるということです。そこで、より頻繁に検査するには、理想的には1〜2時間での高速な検査が必要です。そしてそれが、私たちが作成したメソッドなのです。

大きな市場が確立されているにも関わらず、現在提供されている技術は速度、感度、コストの点でまだ不十分です。私たちの方法は、既存の技術を大幅に改善したものであり、今後数年間で市場の大部分にシェアを広げることのできる可能性があります。

現在、私たちの新興企業Xibus Systemでは、フィールド検査用のプロトコルを開発しています。私たちの目標は、エンドユーザーが通常の流れで操作できるシステムを提供することです。私たちは、シンプルで、速く、かつ堅牢で、最小限のトレーニングを必要とするものを開発し、現在の運用構造とプロセスを混乱させないように努めています。

質問:業界は、このアイデア、技術を受け入れるのでしょうか?

ティム・スウェーガー:食料生産者は新しい技術に非常にオープンです。このことには、次世代で最新、最高のテクノロジーに明るい顧客を維持すること自体が、非常に競争力があるという事実が関わっています。生産者継続的に開発し、イノベーションを行う必要があるのです。そうしないと、流れに遅れます。このことから、この領域の市場自体は非常にダイナミックですが、私たちはその市場で十分に競争し、そして支配する潜在能力があると考えています。私たちはより優れた製品を作りあげる必要があり、そして一度市場に参入した後には、その競争に勝ち抜くためイノベーションを続けていく必要があります。

質問:あなたの技術は、他のどの領域に適用できるのでしょうか?

ティム・スウェーガー:最も明らかな分野の1つは、腐敗生物の検査です。腐敗は食品生産者にとって大きな損失につながるため、製品内の腐敗生物を迅速かつ効果的に検出する方法は、彼らにかなり大きなメリットをもたらします。

また、食品加工機器の汚染を確認するためにも使用できます。当社の技術を用いて、生産者は機器の一部を拭くことにより、それらが適切に洗浄されていることを確認することができます。たとえば大規模な施設でソーセージを作る場合には、機器を洗浄し、できるだけ早くすべてをきれいにして流れ作業に戻す必要があります。そこで私たちはそれらの機器を稼働させ続け、かつ同時に加工中の食品の安全性を確保することができるのです。

質問:このテクノロジーの将来の開発についてどのように思われますか?

ティム・スウェーガー:現在使用している第一世代の検査機器は、靴箱のサイズです。最終的にはその機器はスマートフォンと同じくらい小さくなり、たとえば一部のアプリケーションにおいては、実際に市販のスマートフォンが読み取り機になると考えています。たとえば、病原体の濃度が高い際には、標準的な拡大レンズを使用しスマートフォンで撮影された写真を通じてそれらを定量化できます。また、ある流れで簡単にバクテリアの数をチェックし、家畜に与えてもいいかどうかをすぐに知ることができます。

またこの技術は医療にも適用できます。たとえば、あなたがインフルエンザやエイズに感染下のかを教えることができます。私たちはすでに、タンパク質バイオマーカーを認識することにより、Zikaウイルス検査を可能にしました。同じ方法で他のウイルス、または消化器系の腸関連疾患などのさまざまな疾患に関連するタンパク質を検出することができます。スマートフォンとアプリケーションソフトウェアを使用して、自宅で検査を自分で行うことを予測しています。

商用ユーザー向けには、ベンチに座るように設計された手頃な価格のプラットフォームを作成し、数百のサンプルを同時に分析できるようにします。このような機能は、大規模な生産施設を運営していて、高い効率が必要な場合に重要になってくるはずです。

質問:発展途上国におけるその潜在的な用途は何でしょうか?

ティム・スウェーガー:私たちのメソッドは非常に簡単で、後発発展途上国で大きなメリットを得ることができます。この技術は飲料水、およびあらゆる種類の食品に適用することができます。たとえば、牛の転移は世界中の牛乳生産者にとって大きな問題です。病原体は群れ全体に素早く広がります。

インドでは、たとえば、ある地域の多くの異なる群れからの牛乳は、多くの場合、中央の収集ポイントで混ぜ合わせます。1つの群れに転移が発生した場合、その全体が損なわれます。私たちの技術を用いれば、影響を受けていない牛乳を汚染する前に、影響を受けた牛群の転移を識別することができます。

重要なことは、農家自身がこの検査を行わうので、それを本当に簡単にしなければなりません。また、熟練した科学者のように細部に注意を払わないかもしれない人によって実施される場合でも、全てが再現可能でなければなりません。

質問:J-WAFSプログラムは、この技術の開発を成功させるためにどのくらい重要な役割を果たしましたか?

ティム・スウェーガー:J-WAFSソリューションプログラムへのサポートは私たちにとって不可欠です。このプログラムによって、私たちは学界と実業界との架け橋となり、より精密な作業を行って人々が使用可能なメソッドを作成することができました。

また、J-WAFSソリューションからの資金で、米国農務省と一緒に実際の条件下でサルモネラ細菌のフィールド検査を実施することができました。

私たちはペンシルバニア州の施設にポータブル分光計と液滴を持ち込み、その機能を初めて確認することができました。このデモンストレーションは、私たちの分析が実世界で機能できることを証明してくれました。これらのことは、一般的な政府研究助成金の下で行う種類の研究においてはあり得ません。これらのJ-WAFSが支援する研究だからこそ、私と私のチームにその商業化を探求する自信を与えてくれ、結果として会社のXibus Systemsが生まれたのです。

質問:次はどんなものを考えていますか?

ティム・スウェーガー:今年が終わるまで、少なくとも一つの顧客現場検査を完了させます。潜在顧客とデモを継続的に実施し、来年の初めまでにさまざまな部分スペースにおいて顧客を増やしていく予定です。

重要な顧客の賛同を得ることができれば、その後規模を拡大してより大きな液滴生産の開始を見込むことができます。実際、各検査には少量のみの使用が必要なため、スケールアッププロセスは標準的な研究室で実施するのが十分であり、大規模な資金は必要ありません。

私たちの資金調達は春の終わりに使い尽くす見込みだが、私たちには非常に優秀な設立時からの投資家がついています。したがって、次のラウンドの資金調達を最適に行うために、顧客の確立が必要です。これが新興企業の現実です!能力を発揮し、それによって追加の資金を引き付けるためにさらなる価値を生み出さなければならない、という変曲点が存在するのです。

もちろん、私たちはその点も順調に進めることができていると思います。

Abdul Latif Jameel Water and Food Systems Lab